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夜、自室のソファに座って雑誌を読んでいたら背後のドアがノックもなく開いた。
ナナリーほどじゃないけれど、僕も足音である程度の判別はつく。
ましてや黙って僕の部屋に来る人間となれば一人しかいないだろう。
「……。」
ついでに若干不機嫌そうな気配も感じた。
「言っておくけど、今回不意打ちくらって驚かされたのは僕の方だぞ。」
顔も上げずに言うと、頭上から少し冷たい声が降ってきた。
「試された、とは思わないのか。」
「思わないよ。」
即答する。
そんな可能性は考えもしなかった。今更必要ないだろうから。
「やっぱり君にはかなわないな…」
ため息と共に彼の声が柔らかくなる。
「そうでもないさ。相当びっくりしたって。」
「ああ、見物だった。」
見上げたルルーシュは楽しそうに笑った。
「だが、感心したよ。相変わらず、状況判断能力に長けてるな。」
真顔に戻った彼は言いながら僕の横に腰を下ろす。
ソファの片側が沈み、スプリングが静かに軋んだ。
それからもう１度安堵のようなため息が隣から聞こえる。
「…ありがとう。」
この距離だから辛うじて聞こえる吐息のような囁き。
「また唐突だな。」
「正体を打ち明けることに迷いはなかったが、君がそれを拒絶しないとは限らないだろう。」
「信用ないんだな。」
「そういうつもりで言ったわけじゃない。」
「ああ、わかってる。」
僕は微笑んで返した。
受け入れてもらえる事の安堵は何より知っている。
信じていいのか、という問いに応えたあの日から僕にとってルルーシュは特別だった。
彼は気づいていないんだろうか。
記憶も帰る場所も大切な人も、何も持たない僕にその全てをを与えてしまったことに。
ルルーシュという存在がその全てになっていることに。
「もう１つ、君に打ち明けることがある。」
「本当に秘密が多いんだな。」
神妙な顔のルルーシュとは対照的に僕は半ば呆れてしまった。
皇族でテロリストで…これ以上何があるというのだろう。
「心配しなくてもこれで最後だ。本当に、ここまで全てを他人に話したことはないからな。」
彼は淡々と話し始めた。
その内容について、どう言えばいいのだろう。
人の意志に介入して１度だけどんな命令もきかせる事が出来る絶対遵守の力「ギアス」。
俄かに信じ難くもあり、また彼の…黒の騎士団の行いを振り返れば納得出来る面も多々あった。
突飛な現実の連続に僕は頭を抱えたくなる。
だが、どんな話が飛び出そうと答えは同じだ。
僕がルルーシュと共に歩くという決めた事は変わらない。
「で、僕は何をすればいいのかな？入った以上は全力を尽くすけど。」
「俺の補佐をしてほしい。作戦の全てを実行するにはあの組織はまだ幼すぎる。
だが、君なら不測の事態が起きても最善の策で処理してくれると思っている。」
ルルーシュは真っ直ぐに僕を見つめてそう言った。
アメジストのような澄んだ瞳に真摯な色が光る。
最大級の信頼の言葉と共に寄せられる言葉。
「わかった。任せてくれ。」
そして、僕の黒の騎士団としての日々が幕を開けることとなった。
僕は再びゲットー内の基地にいた。
黒の騎士団。
新興勢力のテロリスト集団だが、影響力ではエリア１１内最強を誇る。
奇跡のような勝利を次々とおさめる謎の仮面男ゼロの元で。
そして、新入りの僕はその仮面男の隣にいた。
幹部連中他、主だったメンバーが集められた場でゼロが僕を紹介する。
「ライだ。作戦補佐として私の下で働いてもらう。」
手短な説明に部屋中がざわめいた。
初期メンバーにして主戦力のカレンが戦闘面でゼロを支援する親衛隊だとするなら、
僕は作戦補佐として頭脳面での親衛隊みたいなものだ。
ぽっと出の新入りがそんな地位に就くことを面白く思わない連中もいるだろう。
当然の反応だ。
構わない。
そう思っていた。
しかし、隊員達の不満は別の所にあったようだ。
少し遠慮がちに幹部の一人が口を開いた。
「ゼロ、君が選んだ人間だ。有能なんだろうと思う。だけど、
ブリタニア人を仲間にする時はもっと慎重に対処した方がいいんじゃないだろうか？
いきなり機密事項を知りえる役職に就くのは…。」
続いて気の短そうな男が声を荒げながら主張した。
「そうだぜ、ゼロ！ディートハルトの時は散々審査だ何だって疑ったじゃねえかよ。
ブリタニアは敵だろ！今回だけ特別なんておかしくないか？」
ずきん、と頭が痛んだ。
割れそうな痛みに僕は眉根を寄せて耐え忍んだ。
何だろう、この痛みには覚えがある。
「大体、記憶がないなんてのも、どこまで本当なのかわからないじゃないか。
ブリタニア人なら怪しいし。」
「ブリタニア人のくせに。スパイの可能性も…」
「信用できるのかよ。ブリタニア人なんか…」
「…ッ！」
頭痛がひときわ酷くなる。
ずきん、ずきん。
そして…
「…人の血を引いてるんだろ。あんなどうしようもない小さな国の…」
「…人じゃないくせに！生意気なんだよ。」
「お前なんか…人だろ！」
断片的な記憶が閃いた。
眼前でフラッシュをたいたような映像が見える。
腹立たしい。
血筋がどれほどのものだというのだろう。
そんなもの！
「なら、何故君たちはゼロの下にいるんだ？彼こそ、どこの誰とも知れないだろう？」
声が僅かに震える。
部屋の中が静まり返った。
「だって、それは…」
カレンが躊躇いがちに口をはさむ。
「それは？何？奇跡を起こすから？ブリタニアに勝てそうな気がするから？
力が必要なら相応の働きを見せてやる！それで満足だろう！」
言い終わると同時に僕は身を翻してその場を後にした。
頭が痛み、目の前が霞んだ。
廊下の冷たい壁に身を預け、そのままずるずると崩れ落ちる。
何か…こんな事が前にもあった。
血筋のことで酷く言われた僕は矢張り激昂した。
力が欲しいと望んだ。
それで…それから…。
その先は思い出せなかった。
視界が真っ暗に染まり、僕は気を失った。
「ちょっと！しっかりして、大丈夫？」
誰かが僕の体を激しく揺する。
頭が前後にがくがく揺れて気分が悪い。
普通、調子の悪い人間の事はそんな風に扱っちゃいけないものだと思う。
「う…。」
ようやく目を開けると、そこには見慣れた赤い髪の少女が僕の事を心配そうに覗き込んでいた。
「カレ…ン…？」
「びっくりした。通りがかったら倒れてるんだもの。」
「うん…ごめん…。」
「大丈夫よ！それより、医務室まで行く？」
彼女が屈託なく笑う。
カレンっていい子だな…。
「そうじゃなくて、さっきのこと…。」
「え？ううん、気にしてない。誰だってあんな言い方されたら怒って当たり前だもの。」
「…ありがとう。」
彼女に助け起こされながらどうにか立ち上がる。
まだ少し眩暈がしたがあの激しい頭痛は治まっていた。
「記憶を失う前にもああいうことがあったらしくて、つい。」
「そうなの？」
「ああ。本当は彼らの言い分はわかるんだ。なのに感情に流されて…駄目だな、僕は。」
今なら冷静に考えられる。
当局にバレたら一瞬で終わるようなテロリスト集団にとって、
スパイの可能性のある人間なんか置いておきたいはずがない。
「半分は私のせいなの。」
カレンが申し訳なさそうに目を伏せる。
「え？」
「あなたが黒の騎士団に入るって聞いて嬉しくて…みんなに色々喋っちゃったの。だから…」
ああ、なるほど。
だからゼロも僕も言ってないような記憶喪失の部分まで伝わっていたのか。
「ごめんなさい。」
「いいよ。気にしてない。それより、色々教えてくれるかな？あれだけ大口叩いちゃった以上、
結果は出さないといけないしな。」
いたずらっぽく笑うと彼女も微笑んで返してくれた。
「ふふっ、そうね。わかった！着いてきて、とりあえずここのことから教えてあげる。」
カレンが元気よく駆け出す。
僕も後を追おうとした時、ゼロとＣ.Ｃが通りがかった。
「…ライ」
仮面の下の表情は読めないが、少し戸惑った気遣うような声。
「あ、ゼロ！さっきはすまなかった。以後気を付ける。」
「いや、それより…」
ゼロが何か言いかけたが、同時に通路の先から声がした。
「ライ！早く来ないと置いていくわよ！」
「カレン、待てって！すぐ行く！…ゼロ、悪い。また後で。」
それだけ言って僕はカレンを追って駆け出した。
だから、背後で呟く二人の会話は聞こえなかった。
「辛そうだから心配で見にきた、とかさっきは大丈夫だったか？とか、言いそびれたな。
全部カレンに先を越されたみたいだぞ？」
「うるさいぞ、Ｃ.Ｃ」
「ふっ、油断していると取られてしまうんじゃないか。」
「うるさいと言っている！」
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| おまけＴＡＬＫ |
| ブルームーン編ＥＤ後から、真相を聞いたライが黒の騎士団に入るまでです。 なんかブルームーン編のライって記憶は取り戻してないし、どっちかっていうとのほほんとナンパ男化していたので。本編とはまた違った形で活躍するかなあ、とか。 個人的にもっと王様Ｖｅｒのライが見たいとか！ そして、微妙にルルーシュの方がライに惚れてる感じがします。 基本、どのルートでもゼロはライに甘かった気がします。いいなあ、この二人。 ラブラブしてなくても信頼関係と友情で充分です。 でも、せっかくブルームーン編後を想像するならラブラブです！ |