治基×紗依　ＳＳ　　おまけ 毎日、不思議だなあと思うことがある わたしは今、フランスにいる。 天気のいい昼下がり。 手入れされた庭には真っ赤なバラが咲き誇ってる。 真っ白なテラスに用意されたティーセット。 女の子なら誰でも憧れちゃうようなロマンチックな風景の中で、のんびりお茶なんか飲んでる。 もちろん、それも充分不思議の1つだけど、もっと不思議なのは･･･。 「あ、来た･･･。」 向こうから治基さんがやってきた。 今日はお仕事、早く終わったのかな？ 彼はわたしが寝てる間にすっかり優雅な紳士に変わってしまった。 やっぱりまだちょっと慣れないよね。 人ってそんなに簡単に変われるものなのかなあ？ 「今日はいい天気ですね。お体の調子はいかがですか？」 風になびく長い髪。 すらっとした長身にスーツが良く似合ってる。 「もう大丈夫です！治基さんってば、本当に心配性なんだから！」 「すみません。あなたがこうして起きていられるだけでも、まだ嬉しくて、つい。」 本当に嬉しそうに治基さんは言う。 前は敵だったけど、今はわたしの･･････何だろ･･･？ この人がわたしの事を本当に大事にしてくれてるのは良くわかるんだ。 だけど･･･だからって急には割り切れないよね。 わたしはもう日本に帰れない。 お母さんにも友達にも会えない。 もちろん･･･宗重さんや皆にも。 全部治基さんのせい。 それを思うととっても悲しくて切ない。 なのに今、彼を憎めるかって聞かれたら･･･きっと無理･･･。 むしろ･･･好きなんじゃないかって思うくらい。 それが、わたしの毎日考えている不思議。 どうしてかなあ。 わたしってそんなに薄情者だったっけ？ 「あの、どうかされましたか･･･？」 黙り込んだわたしを見て、治基さんが心配そうに覗き込んでくる。 「いえいえ、なんでもないんです！わたし、ちゃんと元気ですから。ほら、こぉーんなに！」 わたしはわざとらしく両手を振って元気さをアピールしてみた。 いけない、いけない。 治基さんってわたしの事となると、めちゃめちゃ心配性なんだよね。 「そうですか。それならいいんです。今日はすこしあなたにお聞かせしたい話しがあって。」 元々丁寧な口調をさらに改まらせ、神妙な顔つきで治基さんが言った。
	「何ですか？」 「少し、調べてみたんです。･･･彼らのことを。」 “彼ら”･･･そう治基さんが言う相手って･･･もしかして･･･っ！？ 「それって･･･！」 「ええ、そうです。あなたはきっと気にしているだろうと思いまして。 もちろん、わかったのは公式の記録に残っている分だけですが。」 「はい･･･。」 「まず、用心棒の三人ですが、彼らは浪人だったので公の記録には何も。 でもきっと・・・生きていたでしょう。しぶとそうでしたからね。 それから、望月藩はあの後、初姫が眉澄の子と結婚して継いだようですね。」 「え？初姫が･･･？」 意外。 あれだけ自由に生きるんだー！って言ってたのに。 「はい、なかなか頑張っていたようですよ。 結婚相手とは年の差がありましたから、実質的な藩の切り盛りは彼女がやっていたようです。 あの性格ですから、さもありなんですね。」 そこで一度、治基さんは言葉を区切って、自嘲的に笑った。 「私は彼女には藩をまとめる力はないと思っていたんです。 お家の事など省みない駄目姫と。でも、違っていたのかもしれませんね。 ･･･全く･･･駄目なのは私の方です。」 えーと･･･そんなことはない、と思う。 初姫ってかなり激しい性格だったし。 あ、治基さんが沈みまくってる。 ちょっとフォローしておこうかな。 「そんなこと、ないと思いますよ。きっとあの一件で初姫も変わったんです。 それまでの姫は･･･やっぱりちょっと政治には向いてなさそうでしたもん。 あなただって随分変わったじゃないですか。」 「･･･そう、ですね。」 弱弱しく治基さんは微笑んでから、私の手を取った。 「ありがとう、紗依。あなたがいたから私は変われたのです。」 「いえ、そんな･･･。」 それより、気になることがあるんだけどなあ。 「あの、宗重さんは･･･？どうなったかわからないんですか？」 幸せになってたらいいって思う。 もう時を隔ててしまった今、あの人には二度と会えないから。 せめてあの人の残りの時間が幸せだったらいいなって。 けれど、治基さんは急にぷいっと向こうを向いてしまった。 「知りませんね。」 「えー。」 絶対、知ってて隠してる顔だー。 「知りません。知ってても教えません。」 「どうしてですか？」 治基さん、普段わたしにはあんまり見せないような不機嫌な顔、してるよ。 「どうして、って･･･彼は、好敵手ですから。」 「えー、ライバルぅー？」 意外だった。 そりゃあ、治基さんはわたしの事をすごくすごく大切にしてくれてるけど。 愛してるとか言われた事あるけどっ。 「そうですよ。あんな形であなた方を引き離してしまったことは、 本当に申し訳ないと思っています。でも、今更私は･･･。」 受け入れる、って言ったのはわたし。 だけど、名前を聞いたらやっぱりあの人の事を思い出しちゃうよ。 宗重さん･･･。 優しい人だった･･･。 でも、今もうあの人を想っても涙はこぼれない。 それがまた余計に悲しい。 時を越えたときに、想いまで置いてきちゃったのかな。 悲しくて治基さんの顔を見ていられない。 足元の芝生ばかりを見つめるわたしの上から、治基さんの申し訳無さそうな声が降ってきた。 「すみません･･･。私はまたあなたを悲しませることばかり･･･。 その、筑波宗重は･･･彼は･･･随分と長生きをしたそうです。 塙に代わり、ずっと望月藩の為に尽くした、と。」 そっか、宗重さん・・・長生きしたんなら良かった。 「？」 見上げると治基さんがなんだかとっても居心地の悪そうな顔をしてる。 なんだろう？ まだ何か言いにくいことあるのかな？ じっと治基さんの顔を見つめてみたら、彼は物凄く疲れたような大きなため息をついた。 「・・・そうですね・・・これは･･･やはり伝えておかねばならないことかもしれません。 彼は生涯、妻を娶る事はなかったそうですよ･･･。」 「え･･･？」 「言ったら、あなたがまた悲しむだろうと思いました。 それに私に振り向いてももらえなくなるのではないかと。」 「･･････。」 目頭が熱い。 大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。 わたしもきっと一生、宗重さんの事を忘れる事は出来ないと思う。 短い間だったけど、一緒に過ごして楽しかった事を。 好きだった事も。 でも少し、わたしは嬉しかった。 まだあの人を想って泣ける事が嬉しかった。 わたしはまだ変わっていないんだって。 そして、1つ気が付いた。 「･･････本当に、申し訳ありません。自分勝手なことを言いました･･･。」 目の前で治基さんはただただうなだれている。 この人の事をやっぱり嫌いにはなれない。 人が変わるのってすごく大変なことだと思う。 初姫はどんな思いで結婚を受け入れたんだろう？ 藩を取り仕切る覚悟を決めたんだろう？ きっと嫌な思いも悲しい事もいっぱいあって、それでも初姫は頑張ったんだと思う。 目が覚めたらすっかり変わっていた治基さん・・・、 彼もわたしにはわからないくらい頑張って今この場所にいるんだと思う。 そんなこの人を嫌いになんてなれない。 時を越えたせいじゃない。 覚えてはいなくてもこの人と一緒に過ごした時間も、その想いもきっとわたしの中に残ってるから。 嫌えない、と思う事がすでにわたしの変化の一歩なのかもしれない。 でも・・・わたしも少しずつ変わっていってもいいよね？ 宗重さんのこと、ずっとずっと忘れはしないから。 「治基さん･･･いいんです、もう。」 わたしはそういって治基さんに微笑みかけた。 「紗依･･･？」 「でも、ライバルは手強いですよ？」 一生忘れられない人。 治基さんだって、わたしが簡単に割り切れない事はきっと充分わかってるんだと思う。 だけど・・・ 「大丈夫です。僅かでも余地があるのなら全力で臨ませていただきます。」 治基さんがきっぱりと言い放つ。 「まだまだ時間はたくさんある。 それに･･･あなたは私の世界を変えた人だ。そう簡単に手放すつもりはありません。」 「治基さん･･･。」 わたしは彼を見上げた。 どこまでも優しくわたしを見つめる瞳がそこにはある。 世界を変えると言ったこの人の、世界を本当に私が変えのかな？ なら、やっぱりわたしの世界もいつか変わる日がくるかもしれない。 二人の出会いが運命のフロイデだと言えるような日がいつか･･･。 ＢＡＣＫ　　INDEX あとがきTalk えーと、用心棒の(最愛キャラ)大野治基と主人公、紗依の二次SSでした。 いかがでしたでしょうか〜？ PS2移植にあたり、攻略キャラ昇格ーーー！と思ってたらオチはあっても過程が・・・。 そんなわけで、適当に想像(妄想？)してみました。 ホントに適当なんで細かいツッコミはナシだっ！ まあ、きっと色々葛藤があった上で彼も変わったんだろうなーと。 もちろんゲーム中ではそれっぽく説明されてましたが、本当は無駄に偉そうで理想は高いけど追いつかない・・・そんな彼を落としたかったんだがなあ。 あと、彼のルートって宗重ルートの派生だから目が覚めた途端、治基の愛を受け入れちゃう主人公ってのもオイオイと思ったり。 まあ、幸せになるといいなーと思います。 本当はあのビラビラの変な衣装のままでラブラブルートを見てみたかったですけどねー。